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UI デザイン研究室

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操作音のデザイン

UIデザインの要素として「操作音のデザイン」が存在します。
20年近く前、アップル社のマッキントッシュパソコンが登場した際に、エラー音がそれまでの圧電素子から発せられるブザー音でなく、音階を伴った「サウンド」だった事に驚かされました。
現在は、パソコンだけでなくいろいろな電機製品から情緒溢れる操作音や告知音が発せられるようになりました。
特に携帯電話の着信音については、告知音の範疇を脱した独自の世界を形成しています。

[操作音・告知音のJIS規定]

いろいろな電機製品から、いろいろな操作音・告知音が発せられるため、何の音かわからない音が家の中でピロピロ鳴っている事が多くなってしまいました。
電機製品の告知音についてはJISの規定(JIS S0013)が存在していますが、JIS規定を適用していない製品も多く見受けられます。特に家庭電化製品(白物家電)以外ではJIS規定によらない製品が多いようです。
(JIS規格ホームページリンク※別ウィンドウ)


本来は、「危険音」や「警報音」といった人間に危害を及ぼす告知音については世界レベルで統一すべきユーザーインターフェースなのですが、あまり進んでいないようです。

操作音・告知音のデザインについては、九州大学の岩宮眞一郎先生が研究をされており、「音のデザイン」という著書があります。この書籍はサウンドデサインに関する事柄を入門書的に網羅しているため、興味の有る方は是非一読しておくと良いです。

[サウンドデザインの実務]

一般的な電機製品の操作音・告知音は、メーカーが製品開発する際にはなんらかのデザインがなされています。
ゲーム開発では、効果音デザイナーがきちんと存在していますが、電機製品の操作音・告知音とは異なる性質であるため、そのノウハウがあまり共有されていません。
電機製品の操作音・告知音のデザインについては、開発チームやデザイン部門内で音楽に心得がある人がなんとなく担当させられている事が多いのが実務の現状です。
一方で、携帯電話を中心とした世界では、サウンドデサイナーが関与し質が高くて情緒ある操作音や告知音が組込まれた製品が多くなってきています。

[デザイン時の試聴]

サウンドデザインを行う際、作成した音を確認したり、プレゼンしたりすることに煩わしさが伴います。
音ファイルは、画像のように一覧比較することができないため、音のセットを複数案作成した時にどれが良いかを判断することが難しくなります。パソコンのサウンドフレーヤーアプリで1音ずつ聞いていると、だんだん頭が混乱してしまい、どの組み合わせが良いのか判断しにくくなります。
このような場合に、簡単なプレーヤーを作成し、音の種別とテイスト案、伴う画面などを表示確認しながら音を試聴比較すると効率的です。
下のサンプルは私達がよく作成する簡単な形式のプレーヤーです。


[サウンドデータの形式]

以前はMIDIにより発音させた機器もありましたが、電機製品用にはWAVデータを元素材として組込む場合がほとんどです。
組込み用の音データを作成する際には、システム開発者が要求するデータ量形式に合わせた音データを作成する必要があります。音データ量の形式はシステムのメモリー割り当て量やデータ処理速度により決定されます。

データ量は周波数とビットという2種類の値(それぞれ分解能を示しています)で決まります。以前は11kHz/4bitといった低品質の音データを操作音・告知音として組込む場合が多かったのですが、最近の電機製品では高品質な44.1kHz/16bitの音を組込める機器が増えています。
オーディオ用とは異なり、操作音・告知音はモノラル音を使用する場合がほとんどです(モノラルスピーカーがほとんどなので当然ですが)。
音データ量のバリエーション表
周波数ビット備考
96kHz24bitリニアPCMレコーダーで超高品質なこの録音レートに対応した製品が販売されています。
48kHz16bitDVDのオーディオで使用されています。DATもこのレートでした。
44.1kHz16bitオーディオCDで使用されており、普及しているデータ量形式です。
22.050kHz8bit2000年頃のマルチメディア時代はこのデータ量がいろいろなソフトウェアーで利用されていました。
11.025kHz4bit2005年頃まではこのような低データ量で操作音・告知音として搭載した電機製品が多かったのですが、現在は減ってきています。
上記の周波数値とビット値の組み合わせ以外にもデータ化は可能です。経験的には22.050kHz/16bitであれば操作音・告知音として使用するのに十分だと思います。
作成済み音データ量形式を変更する際には注意が必要です。データを高品質形式から低品質に変更するとノイズが混入する場合があります(※圧縮ノイズとも呼ばれています)。
このノイズ混入の発生起因は、レートを変更する際に使用するソフトウェアーや源音の特性により異なるなど多少複雑なため、対処にはノウハウが必要です。この問題を避けるためには、製品に組込むデータ量形式で最初から音作りを進めておくことが必要になります。

※上記の「データ量形式」はWAVデータに対する尺度です。MP3データはデータレート(bps)という異なる単位でデータ量を表します。

[音作りの注意点]

一般的なオーディオサウンドとは異なり、電機製品用の操作音・告知音を作成する際には、データレートだけではなく実際に発音される音域が制限されることに注意することが必要です。
操作音・告知音用に搭載されるスピーカーは貧弱なものがほとんどです。またスピーカーの取付け位置や反響のための構造も高音質の発音を考慮していない場合が多いです。その結果、同じ音データであってもパソコンのスピーカーやヘッドフォンとは異なって発音される場合があり、せっかく情緒や余韻のある美しい音を作成しても、製品に組込まれると聞き取りにくい変な音になってしまう事があります。
この問題を回避するには、音データを搭載する予定の製品に組込んで試聴しながら音制作を進めることが必要なのですが、実際にはそのような進め方は難しいケースがほとんどです。(新製品なので発音可能な試作品が存在しなかったり、音データを組込むためには複雑な操作が必要となったりします。)
このように実際の製品に組込んで試聴ができない場合は、ヤマ勘で音をチューニングして作成することになります。ただし、可能であれば製品に搭載するスピーカーの特性表を入手して最低限の最適化を行っておくことが望ましいです。
※下記はスピーカーの特性表サンプルですが、このように低音領域に弱いスピーカーの場合は出力可能な中低音領域の表現を強調して低音領域の弱さをカバーするようなチューニング(アレンジ)が必要となります。


[まとめ]

きちんと取り組もうと思うと、意外に奥が深いのが操作音・告知音デザインです。
0.2秒の短い音でテイストを表現したり、操作用として全体構造化を必要とするなど、一般的な音楽制作や効果音制作と異なるスキルが要求されます。
画面などの表示系ユーザーインターフェースデザイン(GUIデザイン)に比べ、音系のユーザーインターフェースデザイン(SUIデザイン)は未発達なので今後の進展が楽しみな領域です。

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